IT試験 (Integrity Test) とは
IT試験は、杭の健全性を判定する技術として、最も簡便な方法であり、既製杭、鋼管杭および場所打ち杭はもとより、深層混合処理工法による柱状改良体の施工管理や品質管理にも用いられています。
当社は、阪神・淡路大震災、新潟県中越沖地震および東日本大震災など杭の被害調査をはじめ、新設杭の施工・品質管理や既存杭再使用調査など、国内でもトップクラスの調査実績を誇ります。
このIT試験に関しては、専門的に調査方法や結果の解釈等の研究が行われており、その成果は、建設省土木研究所(当時)、阪神高速道路公団(当時)、財団法人土木研究センター(当時)および民間12社による共同研究報告書『橋梁基礎構造の形状および損傷調査マニュアル(案)』や既存建物評価検討委員会による『既存杭等再使用マニュアル(案)』等に取りまとめられています。
IT試験装置
当社では、オランダProfound社のITシステム(以下IT試験)を用いております。IT試験のシステム仕様は下表に示すとおりです。
IT試験のシステム仕様
構成部名称 | 構成部の仕様 |
計測器本体 | サイズ : 248×164×38mm 質 量 : 2,300g メモリ : 1GB 温度範囲: -20°~60° 48.6kHz、24bit A/D変換機能搭載 |
センサー | 耐熱性圧電型加速度計 校正値 : 10mV/m/s² 最大計測加速度: 500m/s² |
ハンマー | プラスチック製ハンドハンマー(標準仕様) |
また、弾性波速度測定に対応した2チャンネルタイプの測定器も保有しております。
2チャンネルタイプのIT試験器の外観
2チャンネルタイプのIT試験器の仕様
構成部名称 | 構成部名称 |
A/Dコンバータ | 入力チャンネル数: 2チャンネル 最高変換周波数 : 25MHz 変 換 分 解 能 : 16ビット |
センサー | 高感度加速度計 校正値 : 10mV/m/s² 最大計測加速度: 490m/s² |
ハンマー | プラスチック製ハンドハンマー(標準仕様) |
IT試験の概要
標準的な試験は、杭頭をハンマーで軽打して弾性波を発生させ、その振動応答を杭頭に押し当てたセンサーで測定します。
試験装置は、ノイズに対処するため、測定された波形に適当な周波数フィルターをかけることが可能です。また、杭を伝播する間に生じる波動の減衰に対処するため、信号の増幅率を時間の経過とともに大きくすることも可能です。
測定データは、1回打撃するごとに、デジタル値として、試験装置本体のメモリーに記録されます。測定時には、数回の試し打ちを行い、測定波形が安定して得られる位置を選定し、再現性のある波形を取り込みます。
IT試験の概要図(標準的な測定パターン)
測定例(杭頭での測定)
上部構造物やフーチングがある場合、打撃部(鋼製)を用いた杭の側面での測定や打撃棒を利用したコアボーリング孔での測定が可能です。その他、現場の状況に応じた測定に関しては、お気軽にお問合わせください。
測定例(杭側面での測定)
測定例(コアボーリング孔での測定)
測定結果の評価
測定結果の評価は、『橋梁基礎構造の形状および損傷調査マニュアル(案)』や『既存杭等再使用マニュアル(案)』によると、「A.健全性が高い場合」、「B.部分的な損傷の疑いがある場合」および「C.杭の全断面に及ぶ損傷の疑いがある場合」の3項目に大別することができます。
杭に損傷の疑いがある中間反射が見られた場合には、柱状図等の地盤情報(地盤構成、N値)や継手深度等の杭の仕様を考慮したうえで評価します。
ボアホールレーダー
IT試験は、測定波形から、杭の長さを簡易に判定することができる有効な手段でありますが、計算上杭の弾性波速度値を仮定しなければならないため、誤差が生じる場合があります。IT試験の測定精度は、理想的な状態では±5%以内、実務上の状態では±10%以内と考えられています。
杭の長さをより精度高く評価したい場合には、IT試験よりも探査精度の高いボアホールレーダーとの併用により、より確実な評価が可能となります。
ボアホールレーダーは、パルス状の電磁波を送信アンテナから放射し、対象物から反射してくる電磁波を受信アンテナにより連続的に検出し、放射からの時間差と電磁波強度を影像化する手法です。
この検層方法は、あらかじめ杭から1m以内にボーリング孔を設置して、孔壁崩壊を防ぐために、VP65以上の塩ビ管を挿入する必要があります。さらに、ボーリング掘削時に泥水を用いた場合には、電磁波の透過性を高めるために清水で置換する必要があります。
また、供用中の橋脚の基礎杭など、杭自体を直接打撃できない場合でも適用可能です。
ボアホールレーダーアンテナの外観と仕様の一例
弾性波速度検層
IT試験は、測定波形から、杭の健全性を簡易に判定することができる有効な手段でありますが、杭自体を直接打撃しなければなりません。例えば、供用中の橋脚の基礎杭など、杭自体を直接打撃できない場合は、ボーリング孔を利用した弾性波速度検層により、杭の長さを判定することが可能です。
この検層方法は、あらかじめ杭から1m以内にボーリング孔を設置して、孔壁崩壊を防ぐために、内径50mm以上の塩ビ管を挿入する必要があります。
測定は、杭頭部近くの構造物を打撃することによって発生した弾性波を、塩ビ管の中に挿入したハイドロホンで、その伝播時間を計測します。このとき0.3m~0.5mピッチで測定することにより、走時曲線を作成し、その傾き(弾性波速度)の変化から、杭の先端深度を推定します。
弾性波速度検層の概要図
弾性波速度検層による杭の先端位置の推定例
一次元弾性波理論を応用した杭の形状推定(場所打ち杭に限る)
場所打ち杭では、IT試験で得られた測定波形から、杭の形状を推定することが可能です。これは、一次元弾性波理論を応用した杭の形状推定解析方法で、杭頭の断面積を100%として、杭の凹凸を推定します。
一次元弾性波理論による杭の形状推定例